2009/6/7ジャンプSQ読み切り『離婚調停』感想 Twitterの方でもちょっと書きましたが、松井先生の読み切り『離婚調停』を読んだので感想を。 舞台は世界中がカピカピに干からびてしまった未来の地球。原因は分かりませんが、大地は荒れ果て、文明も退化し、まるで世紀末の世界です。その辺の地平線の向こうから武装したモヒカンの集団が現れてもおかしくない。 そんなカピカピの大地を巨大な剣を引きずりながら旅する一人の男がいました。 そして男が旅の途中で出会った露天商の少女ルカ。 男は少女に「その岩…ちょっと切っていい?」と言うと、まるで豆腐でも切るかのように剣を引きずったままで岩を切っていきました。 世紀末な大地に現れたのは、世紀末救世主のようなムキムキでも肩パットでもない、変なヒゲの普通のおじちゃんでした。 ルカは干からびた大地で高額で売られている水をわずかに買い取り、それで巨ポンカンを育てて生計を建てていました。家族背景についての説明はありませんでしたが、ルカ一人で生活費をまかなっているようなので彼女一人で生活しているのでしょう。 巨大なポンカンというのはもちろん架空の果物ですが、この辺の果物のセレクトになんとなく松井先生らしさを感じてしまいます。 岩でも石炭でも何でもスパスパ切れてしまう不思議な剣を持つ男ですが、見た目は剣士にはほど遠く、しかもその剣をなぜかずっと引きずりながら歩いています。話の掴みとしてはなかなか興味がわくところです。 さて、ファンタジーな未来世界に巨大な剣を持った男。タイトルの『離婚調停』からはおよそ想像も付かない話の始まりですが、いったいどこにこのタイトルに関係する要素が出てくるのかというと… 旅の目的:離婚による財産分与の手続き なんと主人公であるこの男、旅の理由は資産運用に失敗したあげくの離婚によるものでした。 『離婚調停』というタイトルで読み切りが出ると告知があった時には当然のように現実世界の現代を舞台にした話だろうと思っていたわけですが、見事にフェイントをかけてきました。 そしてこの男は、無理矢理持っていかれてしまったルカが栽培していた巨ポンカンを取り返しに行くために、水売買をしている富豪、山本の家に乗り込みます。 そして男は二つの要求をします。 男「山本さんかい。ちょっと2つほど用がありまして」 男「まず、この娘の巨ポンカンを返して欲しいのと」 男「…それともう1つ」 男「この家…ちょっと切っていい?」 いや、その辺の岩切るみたいに言うなって。離婚調停の関係上この家を避けて通れないと言う男。しかし、何でもかんでも「ちょっと切っていい?」と言っていると危ない人と思われてもおかしくないです。 やはりそんな男を危ない奴と見なしたのか、山本は即座にクセ者と見なして息子たちに攻撃を命じます。 山本「太郎〜〜三郎!!クセ者だ!!痛い目を見せてやれ!!」 この召集で三台のアーマード・ハイエースが出てきたのですが、この「〜〜」の中におそらくは二郎が省略されているのですね。 岩石をも軽く粉砕しそうな重装の車を相手に、この引きずっている剣でどう戦うのか。『ベルセルク』のガッツのごとく巨剣を振り回して粉砕するのか、切れ味のいいこの巨剣の特性を見せて『ルパン三世』の五右衛門のごとく神速の斬撃でバラバラに切り刻むのか。男が取った攻撃は… 大地を切り離しました。まるでチーズみたいに。 男が引きずっていた剣は地中深く、地球の中心まで刺さっていました。男は剣を引きずっていたのではなく地球を切っていたのです。 ルカ「分けてあげる財産って…地球の事だったの?」 男「まぁね」 ルカ「地球って…おじちゃんの財産だったの?」 男「まぁね。神だからね、俺は」 離婚による財産分与の手続きに苦労する男の小さな話かと思いきや、いきなり地球丸ごとでスケールの大きい話になりました。 男の正体はこの地球を所有する神。新世界の神とか自称神なんてものではなく、本物の神様です。人間に地球を任せすぎてうたた寝していたらいつの間にかカピカピの有様になってしまったらしく、その結果、同じく神である奥さんと地球を折半することになったそうです。任せすぎた結果がこれだよ。 しかし、彼はそれでもまだこの星には価値のある命がたくさんあると言い、また以前のような楽園にすることを目指していました。 そしてそんな彼をルカは笑顔で見送ります。取り返した巨ポンカンを真っ二つに割って、「私も財産半分あげる」という演出はうまいです。 いかにも読み切り的な作品できれいにまとまっていて、離婚調停という痴話事が男の正体が判明した時点でいきなり壮大なスケールの話になるという読者をあっと驚かせるギミックも盛り込まれていて、読み切りとしては良作だったと思います。ローディングの長い山本家や「ゼウス」のサインなど、松井先生らしい随所の小ネタも光っていました。 『ネウロ』の作風からは大分変わった印象を受けますが、ワンパターンにならないこれだけの作風の幅を持っているということを印象づけるには十分な作品だったと思います。 ▲ |